9月のある日、帝京大学医真菌研究センター所長の安部茂教授から本が1冊送られてきました。「オキシトシン」シャスティン・ウヴネ―ス・モベリ著(晶文社)という本で、本の所々に安部先生の色々な書き込みがあり、最後の方に私の名前が書いてあり、読ませたいと書いてありました。
安部先生とは十数年来の長い付き合いです。J-EATが主催する講演会には何度も講演をしていただいています。
10月10日、11日大阪国際会議場で開催された日本アロマセラピー学会では、ランチョンセミナーの1時間の枠を30分が私で、残りの30分を安部先生が受け持ち、“炎症性疾患患者へのアロマセラピーの実地と基礎―中国での展開を交えてー”をテーマに講演をしてきました。そこで、この「オキシトシン」についても説明してきましたので、ご紹介します。

私の講演では、中国のアロマセラピーの流れと2年後に開園予定のアロマテーマパークについての話から入り、肋間神経痛の患者さんの例を引き、ペインクリニックなど半年以上の治療でも痛みが治まらず、私の治療院に来院されて痛みが治まった実例を話しました。
この患者さんをはじめ、痛みなどを持っている患者さんの患部に触れていない医師が多く、この患者さんも私の治療院に来て、初めて患部に触れられたと言っていました。今の医療に足りないところはタッチング、触れることであること、そしてマッサージ、鍼などでの手技治療での痛みに対する理論を三つ紹介しました。
一つは手技によって血流が良くなり、体温が上がり、脳血管を支配する自律神経ニューロンに刺激が伝わり、アセチルコリンを放出し、痛みが抑えられること。
二つはゲートコントロール理論。痛みはA-delta繊維を使って脊髄に伝わり、タッチングや鍼による刺激はA-beta繊維を使って脊髄に伝えられます。それぞれが同じ脊髄伝達細胞に伝わりますが、それぞれゲートがあり、強い刺激の方が脊髄伝達細胞に伝わり、弱い刺激の方は伝わらない。痛みを伝えるA-delta繊維は細く、タッチングや鍼の刺激を伝えるA-beta線維は太いので、A-betaの方が優位に伝わります。このようにゲートでコントロールされて痛みは抑えられるのです。
三つ目はオキシトシンによって痛みが抑えられることです。オキシトシンは出産、授乳、母性行動に関わるホルモンとして知られていましたが、“オキシトシン”の著者、スウェ-デンの生理学者のウヴネ―ス・モベリは4人の子供の妊娠中、授乳中、そして子供達と密接に接触してきた時期に、挑戦、競争、達成などに関わる精神生理学的状態とは全く異なる「安らぎと結びつき」を感じ、その研究に入ったと言っています。挑戦、競争、達成などによるストレス、痛み、孤独、緊張など「闘争か逃走か」システムに対して、休息、優しさ、人の交わり、くつろぎ、成長、治癒など「安らぎと結ぶつき」システムによってバランスを取っていかねばならないと主張しています。いま自律神経系を扱う論文では90%が「闘争か逃走か」システムを活性化する交感神経に関するもので、「安らぎと結びつき」に関する副交感神経は10%に過ぎないそうです。
そしてオキシトシンは美味しい食事をした時とタッチングで生じると言います。美味しい食事は内側からのマッサージと解釈されています。今後オキシトシンがキーワードになって、癒しが科学的に認められる世界になるでしょう。

町田 久