7、8年程前から北京の大気汚染がひどく、北京空港に着陸する時から滑走路にモヤがかかっていて見えづらいほどです。街の中に入っても、ホテルの部屋から外を見ても100~200メートル先が見えない時もあり、ほとんど空は見えませんでした。月や星が見えると日常会話のネタになるほどです。当時から肺炎を起こす人が随分多くなってきたと聞いていました。
5年前の北京オリンピックでは、化学物質を気象ロケットで打ち上げて北京近郊の別な場所に雨を降らせ、会期中、北京を青空にしたと言われています。数年前に北京のタクシーで、「今日は雪が少し降りましたね」と言ったら、「今日の雪降りはあまりうまくいかなかった」と運転手が言っていました。あまりに大気汚染がひどくなると、北京に雨や雪をロケットで降らせるそうです。ニュースで市民に情報を流していると思います。

現在、中国では微小粒子状物質PM2.5の濃度が問題になっています。原因は工場からの煤煙、車の排ガス、暖房用の石炭からのガスなどが言われ、粒子が細かく肺の奥深く入り込み、ぜんそくや肺がんなどの呼吸器系、脳卒中や心筋梗塞などの循環器系の病気のリスクが高まるとされています。1960年~1970年代の日本よりも公害が深刻と言われ、今後、中国からの越境汚染と日本国内の汚染との複合汚染が心配されています。
日本では飲食店、喫茶店では、タバコの煙によるPM2.5が北京と同じレベルだと報告されています。日本の1日の平均環境基準が35?に対して300から400?あるそうです。喫煙している部屋や車内の副流煙汚染、受動喫煙に気をつけなければいけません。
受動喫煙は認知症やアルツハイマー病を悪化させることも報告されています。アルツハイマー病は、脳の中にアミロイドベータ(Aβ)やタウなどの異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞が減少、記憶力、判断力が衰えます。マウスの実験では1日1時間、1本分のタバコの煙に4ヶ月さらされるグループは、全く煙にさらされないグループに比べ、脳内で記憶をつかさどる海馬や大脳皮質の神経細胞にアミロイドベータが約40%~50%多く蓄積しているという実験報告が出ています。
中国では、日本製の空気清浄器がよく売れているという話も聞きますが、空気清浄器で解決できるような問題ではありません。

私の恩師、物理学者の三石巌先生は40年程前の著書「文明の解体」の中で公害について下記のように書かれています。今読んでも視点の確かさが見てとれます。

“公害問題ほど視点の明白な分極を生む現象はまれであろう。そのことは、公害問題をうやむやに葬る空気の生みの親でもある、裏からみれば、社会の歪みをみるには公害問題を分析するにかぎるとさえいえよう。”

“公害は環境破壊ともよばれるとおり、生体をかこむ環境の問題である。そして、環境には空気もあり水もあり食物もあり音波もある。その総体がわれわれの生命を握っているのである。それを思えば、環境の一要素をとって、「何PPMだ」「何ホンだ」というのは、総合された生体からすれば機械的分析であり非現実的である。本書はここに「総公害」の概念を提唱する。われわれの注意をひくのは個別公害であるが、生体を締めつけるのは、それではなくて総公害である。医学者若月俊一の提唱する「総汚染」も結構である。公害・汚染を問題にするとき、「総公害」「総汚染」こそが注意すべきポイントになる。”

100年前、地球に生存していなかった化学物質が、全米化学学会での登録は2009年に5000万種類、2012年には7000万種に達しているというのが現状です。

町田 久