文化と遺伝子 ~第3回安部塾より

安部塾3回目が開催されました。
今回のテーマは「遺伝子と文化そしてストレス」ですが、今回は遺伝子をテーマにした区切りの3回目になるので、出席者の自己紹介を安部先生が希望され、ストレスの詳しい勉強は次回にして、その時間は自己紹介に回しました。

安部先生は
“文化とは、遺伝以外の手段によって世代間に伝わる行動様式やモノを示す言葉”
として定義しています。そして
“科学も芸術もそして人間らしいほとんどの活動が文化の一つで、ヒトが地球で持つ生物学的地位も、ヒトが持つ文化によって獲得している” と講義されました。
そこで庭野先生(松戸で開業している医師)から質問が出ました。
“遺伝子以外の手段によるものが文化であるなら、文化は遺伝子から外れたものなのかどうか?”
それに対して安部先生は
“ヒトの基本的な仕組みは生物学的に規定されている。その規定された中での文化が引き継がれてきた” と答えられました。
“問題は進化が生物学的性質のため、世代交代時間のスピードが限定される(遺伝子は数千年前の状況に対応した身体と心を作る)のに対し、文化(生活上の技術、生活様式、芸術、宗教)の変化ははるかに早くおきること”
ちなみに女性の遺伝子は男性の遺伝子の10倍のスピードで広がっているそうですから、やはり女性が文化を担ってきたのでしょう。
“ヒトは巨大な脳を得ることで言葉を獲得し、文化を発達させてきた。すなわち大脳皮質が関連する形質を決める遺伝子に支えられてヒトは文化を形成できた。ヒトはその文化の力で生存競争に勝ち抜き、それを可能にした遺伝子を持つヒトが淘汰で残ってきた。”
“現代社会のような巨大さ、複雑さを生じたのは、約5000年前のシリアのウル遺跡の1万人の都市とされています。そこには遺伝子で決められた人間性(形質)と社会が要求される人間像との隔たりがある。このギャップ、ひずみを感じてストレスを受ける”
例えば
“ヒトは顔を認識しあえる集団(100名以下)で仲間意識が育まれるので、大都会では孤独になる。困難な状況では,活動量を低下させて、無駄なエネルギーを消費しない遺伝子は女性のウツに関連する。男と女の性質の違い。” など

また、生物学的特性として、恋は3年、遊びは2時間、集中力は20分であると紹介しました。
人類学者のへレン・フィッシャーさんが書かれた「愛はなぜ終わるのか-結婚・不倫・離婚の自然史」(草思社)では4年目の離婚説が大きな話題になりました。彼女は愛を形づくる3つの脳内システムは原始のころから変わらない、ただそのうち何を一番大事にするかについては、文化などの背景によって変わると言っています。
“ヒトは交配と生殖のために3つの脳内システムを進化させてきた。それは「恋愛」「性欲」「愛着」で、恋愛はどきどきして、相手のこと以外、目に入らなくなる高揚感をもたらします。これに対して性欲は、ほぼどんな相手でも関係を結べる脳システム。そして愛着は長い間付き合っている相手に抱く、落ち着いた感情。”
と考えています。

さて、もう一度生物学的特性を考えてみる必要がありそうです。
生物学的特性をなるべく多く把握しながら生活することが、ストレスを上手に回避する現代人のコツのようです。

町田 久

ヒトの進化と遺伝子 ~第2回安部塾より

6月、7月コラムに安部塾のことを書いたところ、亀田総合病院乳腺外科部長の福間先生、イルカクリニックの三浦先生、アロマセラピストの方、NPO関係の方、一般の方からたくさんの感想が寄せられました。
安部先生のノマドの話から遺伝子の話まで、興味を誘ったのでしょう。7月のコラムに“X染色体は大きなY染色体に比べ、ゴミみたいに小さく、貧弱な形をしている”と書いてしまいました。“Y染色体は大きなX染色体に比べ、ゴミみたいに——-”が正解です。X染色体は母系で、Y染色体は男系染色体です。XとYを書き間違えていたわけですが、すぐに何人かから間違いの指摘を受けました。これも熱心に読んでくれている方が多いせいですね。

安部塾の2回目はヒトの進化から始まりました。キーワードはミトコンドリアイブです。
現代に生きるすべての人間は、約20年前アフリカに生きた一人の女性の子孫であることがわかっています。男性の祖先はわからず、女性の祖先だけがわかるのはどうしてか。それはミトコンドリアにあります。DNAは細胞の核の中に一つだけ位置しているように思えますが、細胞内でエネルギー代謝をしているミトコンドリアも独自のDNAを持っています。そしてミトコンドリアのDNAは母親からのもので、母親系がわかるわけです。母親、母親の母親、さらに母の母の母と女系をたどることができます。しかし精子のミトコンドリアは受精前後に排除されてしまうので父親の系はたどることができません。現在Y染色体から6万年前までたどっているようです。このようにミトコンドリアの遺伝子解析から20万年前のアフリカの女性にたどり着いたわけです。

ヒトの祖先は約700万年前に、チンパンジーの祖先と別れて進化し、熱帯雨林で生活してきたと推定されます。
そして200万年前に、森から草原へと出て、食料は植物から肉食動物の食べ残しの肉へと肉食比重が大きくなっていきます。そのころ100人程度の集団で生活し、お互いの個体識別、挨拶の重要性、子育ての協力など、ヒトの生活の基本型があったといえるそうで、個体識別を伴う社会生活を可能にするには、高度の情報処理が必要で、大脳皮質の面積と関係してくるそうです。
150万年前から80万年前頃から火を利用し、簡単な鳴き声によるコミュニケーションも取れてきましたが、顎と喉頭の位置から母音の発音はまだ充分ではなかったようです。学生の時習った100万年から70万年前のジャワ原人、50万年前から20万年前の北京原人、また3万年前で滅びたネアンデルタール人も我々の祖先、ホモサピエンスではないことがわかっています。20年以上も前にフランスボルドーに行った時に、ボルドーから130キロ東に離れたラスコーの壁画を見に行きました。劣化を防ぐために洞窟は閉鎖されていれ、そこから2キロ程のところにあるレプリカを見ました。洞窟も壁画も照明も本物のように良くできたものでした。赤土、黄土、木の炭に獣脂、血、樹液を混ぜ、主に赤、黄、黒色で馬、羊、山羊、野牛、鹿など大きな動物が書かれていました。この壁画は2万年前から1万年前にクロマニヨン人によって書かれた壁画です。ホモサピエンスであるクロマニヨン人はネアンデルタール人と数万年も同じ世代を生きていたそうです。

町田 久

遺伝子は共有財産

先月に引き続き、安部塾について書いていきます。
安部塾の会場は和風創作料理“銭形”の4階で行っています。
地下鉄「銀座」で降りて、銀座通りを新橋方面に歩き、三菱UFJ銀行の手前を左に折れ、2つ目の左角のビルです。4階は30人ほど入る広さで、正面奥に安部先生の席を作り、右壁を利用してコンパクトなプロジェクターを使い、スライドを見ながらの塾にはちょうど良い大きさの部屋です。16時から18時までの土曜日の2時間を無料で貸していただいています。
女将さんまで早くから来ていただき、会場作りを手伝ってくれています。女将さんは皆からお母さんと呼ばれて、お母さんを相手にお酒を飲むのを楽しみに来るお客さんが大勢います。84、5歳でしょうが、いつも白い割烹着を着て、4階と5階の店を切り盛りしています。調理は2代目店主の息子さんがしていて、季節のメニューもあり、旬のものを安く、大変美味しくいただけますが、一番人気はだしの入った大きな玉子焼き、焼き鳥、おでんという気軽に入れるお店です。
“銭形”の先代は昭和21年から銀座で屋台を引いていました。昭和26年に銀座の美化のために、東京都は屋台の廃止を決め、銀座7丁目付近の土地を提供され、店が作られました。長く大衆に愛読されていた銭形平次の“銭形”を屋号にと、屋台を引いていた時によく足を運んでいた将棋の名人原田泰夫氏に相談し、彼の口添えで、作者の野村胡堂から名前をもらったのが由来です。ちなみに「銭形平次捕物控」は「オール読物」で1931年から1957年まで26年間383編が発表されたもので、映画、テレビでも人気時代物の王道と言われてきました。今では「ルパン3世」シリーズに銭形警部が銭形平次の子孫として活躍しています。

安部先生の話の中で苦笑させられた話がありました。
人の染色体の数は、父親と母親から23本ずつもらった合計46本です。精子や卵子は23本の染色体を持ち、両者が受精して、計46本の染色体になります。23本の染色体の1セットをゲノムと言いますから私たちは2ゲノム持っていることになります。
22本は常染色体で残りの1本が性染色体XかYです。女性はXX、男性はXYを持ちます。
男性の知的能力は母親に似るといいますが、男の子のX染色体は母親由来であり、X染色体上には神経精神活動に関連する遺伝が多数存在するからです。そして劣性遺伝子もX染色体が受け継ぎ、Y染色体は大きなX染色体に比べ、ゴミみたいに小さく貧弱な形をしています。どうも男性は母親から逃れられない存在であることは間違いないようです。

生物を取り巻く環境は激変を繰り返して、その激変が多くの種を絶滅させてきました。
したがって種の存続には遺伝子の多様性と環境変化に適応できる遺伝子変化が必要です。精子や卵子を作る過程の中で、2倍体細胞の減数分裂により、1倍体細胞ができるとき、常に新しい遺伝子の組み合わせがおき、その多様性によってより環境に適合した遺伝子の組み合わせを得てきています。
1本の染色体に注目すると、多くは染色体の組み合わせが起こるために、祖父、祖母から別々にきた遺伝子の一部同士が結合したものになっています。ヒトという種では、遺伝子の99.9%のヌクレオチド配合が一致し、個体差は残りの0.1%の違いだけという。
安部塾の1回目は“遺伝子は多数集団内での共有財産”であるというのが結論でした。

町田 久

博愛精神と遺伝子 ~安部塾より

5月中旬から安部塾が始まりました。
安部塾の形は以前から構想を温めてきました。我々は小学校、中学校、高校、そして大学と教育を受けてきています。しかし多くの方に満足のいく教育を受けてきましたかと聞いてみると、ほとんどの方があまり良い教育とは思えなかったという答えが返ってきます。私はそこに教育体制の悪さと、そして先生にも問題があるのではと思っています。
一人の先生にもっと深く影響を受ける教育が必要だと感じています。そこにはその先生の人生観も含めて、学問の基礎的なところをおさえながら、興味を広げていく教育でなければ、勉強の面白さが出てこないのではないでしょうか。大勢が参加するセミナー、講演会ではなく、一人の先生について、少人数で勉強をしていく形を作り、その形を次の世代に残し、勉強の面白さを伝えたいと考えていました。

そんなことを帝京大学医真菌研究センター所長、大学院医学研究科教授の安部茂先生に話をする機会があり、塾の構想を話したところ、先生も同じ構想を持っていて、即座に塾を作って見ましょうと快諾されました。
安部塾のテーマを“生物学的人生観―遺伝子、ヒト、文化”として、先ず3回出席可能な人を集めましょうということになりました。第1回目は基礎として「遺伝子について」、第2回目は「遺伝子とヒトの脳と身体」、第3回目は「遺伝子と文化そしてアロマセラピー」の内容で始まりました。
第1回目の冒頭、安部先生はジャック・アタリの“第5の波”から話を進められました。ジャック・アタリは1981年から1990年までフランス、ミッテラン政権の大統領特別補佐官を務めた人で、ヨーロッパ最高の知性と呼ばれて、これまでもソ連崩壊、金融バブル、テロの脅威、インターネットによる世界変化を予測してきました。そして彼はヨーロッパでの大ベストセラー“21世紀の歴史”(作品社)の中で、今後50~60年の間に“5つの波”がやってくると主張しています。

簡単に紹介しますと、第1の波はアメリカ支配の崩壊。 第2の波は15~20カ国がリードする多極化の秩序。 第3の波は多国籍を超えた国によるグローバルなルール統治。 第4の波は超紛争。紛争を乗り越えなければ行けないが、そこにはノマド(Nomad)と呼ばれる遊牧民族が増え、大きな役割を果たす。人類の歴史はノマドの歴史とも言え、人類が定住し始めたのがわずか5000年前のこと、今後世界中どこへでも行ける上層ノマドは世界中で1000万~5000万人になる。
そして第5の波は2060年頃の超民主主義。それまでとは別な統治方法や超紛争に替わるものとして利他主義が出てくる。人は他人を援助することで、自分が幸せになることに気付いてくる。高級自動車や自家用機を持っていることがステータスではなく、真の賢さは他人を愛する心すなわち利他主義が心のよりどころになる。価値感が変化し、人を助けることで幸せを感じる博愛精神に心酔することが自分達の利益になることに気付き、さらにトランスヒューマン(合理的博愛)へとつながるとしています。

安部先生が第5の波から話を始めたことは、生物学的に見た法則には身体と心があり、どちらもルールを外れると混乱すること、また遺伝子は単に親から子ではなく、祖母、祖父、またその先祖の遺伝子が混ざり合ったものだから、人を助けることで幸せを感じる博愛精神が心のルールになることを指摘したのだろうと解釈しました。
このようにして安部塾は進められていきます。これからの安部塾に大きな期待をしています。

町田 久

“触れる”心と補完代替医療

桜の開花宣言の日に金沢に行って来ました。羽田から1時間で小松空港、空港から高速バスが接続していて40分程で金沢駅。駅には鈴木信孝先生が車で出迎えて来てくれました。
鈴木先生は金沢大学大学院医学系研究科 臨床研究開発補完代替医療学講座 特任教授、 日本補完代替医療学会理事長です。

日本補完代替医療学会(JCAM)は1997年に設立された学会で、そのパンフの中に補完代替医療について次のように書かれています。
“補完代替医療は、米国のみならずわが国でも近年急速に脚光をあびている医学分野であり、Complementary and Alternative Medicine(CAM)(補完代替医療)という用語が使われています。そもそも代替医療とは西洋現代医学領域において、科学的未検証、臨床未応用の医療体系の総称であり、補完とは「西洋現代医学を補う」という意味であり、あくまで西洋現代医学を機軸としたものです。最近では補完代替医療の重要性が各国で認識されるようになり、専門ジャーナルも数多く発刊されるようになりました。これはこの分野の科学的エビデンスが急速に蓄積されつつあることを示しているものです。1993年、ハーバード大学のEisenberg博士らは、アメリカ国民の42.1%もの人が代替医療を用いていることを、New England Journal of Medicineに発表しました。一方、日本の統計では、成人の約65.6%の人たちが代替医療を利用しているという報告があります”
具体的には中国伝統医学、アーユルヴェーダなどの伝統医学から音楽療法、笑い療法、栄養療法、サプリメント、アロマセラピー、温熱療法まで多彩にあります。

先生方との夕食は宿泊先の金沢犀川温泉滝亭という旅館で摂りました。金沢から2~30分の奥座敷、水量が多い滝が見える露天風呂と内湯は弱アルカリ泉で“つるつる湯“の名がついています。地元のお酒を飲みながら、旬のものを美味しく食べました。
食事の前に先生に顔鍼を施術しました。男性は顔をマッサージしたり、鍼をしたりする機会がほとんどありません。ですから顔の筋肉のバランスと硬さ等にはじめて気づきます。顔のラインがはっきりとしてきて、1枚余計な皮が剥がれたようだと感想を述べていらっしゃいました。

補完代替医療の中で一番基本となるタッチング、触れるという手技が、いまの日本の補完代替医療に欠けているのではないかと問題提起しました。 鍼、マッサージなどの手技には相手に対する思いやりがなくては効果が発揮しません。 その思いやりは日本の心ではないでしょうか。 補完代替医療はアメリカ、ドイツなどで盛んですが、本当は日本が先頭を切って普及させる医療ではないかと思っています。 補完代替医療は思いやりが基本にあるべき医療だと思うのです。
顔鍼に使う鍼は0.12ミリの細い鍼を使います。 その鍼を、鍼管を通して刺していきます。 その鍼は日本でしか作られていません。 鈴木先生と話をしているうちに、顔鍼を世界に広めよう、そのために美容鍼灸研究会を立ち上げようと話が盛り上がりました。
鍼灸美容を通じて補完代替医療の良さの意味を広げていくのは、とても自然に補完代替医療を日本に、世界に普及できる手段になると夢は広がりました。

町田 久